2011年1月26日水曜日

「安全が保証されないから救援機を飛ばさなかった国」と「安全が保証されないから救援機を飛ばした国」

NPOネイビークラブ様より寄稿して頂きました。


最近読んだ 「トルコ 世界一の親日國」(森永堯著、明成社刊)に、日本は「安全が保証されないから救援機を飛ばさなかった国」であり、一方トルコは「安全が保証されなかったから救援機を飛ばした国」であると記述されています。
34年間航空自衛隊に奉職し、我が国防衛の現場において「国を守る」とはどう言う事か ? を追求し続けて来た身としては考えさせられる事ですので、この事を以下に説明させて戴きたく思います。この本はイラン・イラク戦争の時の事を綴った本です。

1 イラン・イラク戦争での在留邦人の脱出
既に御存知の方も多いとは思いますが、事の次第の概略を簡単に紹介します。
時は1985(昭和60)317日、イラン・イラク戦争の真っ最中にイラク大統領のサダム・フセインは「48時間後にイラン上空を飛ぶ航空機に対して無差別攻撃爆撃を加える」と宣言しました。当時イランには200人を越す在留邦人が居ました。諸外国の現地在留民はそれぞれ自国の航空会社の便により急遽脱出をしましたが、当時日本の航空会社はイランに乗り入れていませんでしたので、在留邦人達はドイツやフランスの航空会社の搭乗券を手に入れようとしましたが、外国の航空会社はそれぞれの自国民の搭乗を優先するとの当然の理由により航空便搭乗券は入手できませんでした。 当然、我が国政府はこれら人達を救出するべきでしたが、我が国の法律では「安全が保証されない地域には航空機を運行できない」との事で救援機は飛ばしませんでした。 慌てた在留邦人達は急遽陸路の脱出を図る等の準備を始めたりで不安が一挙に募りました。この時に伊藤忠商事の現地代表であった森永堯氏は本社からの指示により当時のトルコのオザル首相に緊急の要望をしてイランの在留邦人の救出を依頼しました。 森永氏は以前からオザル氏と個人的親交が深く、また、オザル氏も日本を深く信頼している人でした。森永氏の依頼を受けたオザル首相は暫く熟考の後に「トルコは日本に恩義がある」との事で、この緊急状況を理解して森永氏の依頼を快諾し、トルコ航空の救援機を飛ばして呉れたために在留邦人がイラクによる無差別攻撃開始期限ギリギリの時間で無事にイランから脱出できました。

2 エルトゥールル号乗組員の救出
オザル大統領がイラン在留邦人のためにトルコ航空の救援機を飛ばして呉れたのは、オザル首相のみではなく、殆どのトルコ国民が日本に対して深い感謝の気持ちを持っているからです。 これには次のような事実があるからです。
1890(明治32)916日に当時のオスマン・トルコの軍艦「エルトゥールル号」が和歌山県の串本沖で台風により沈没して500名以上が遭難してしまいしまいましたが、その時に串本の大島町の漁民達が深夜の荒れる海の中から懸命に69名の乗組員を救出し、決して豊かではない彼等が自分達の食べる物を減らしてこの人達に暖かい食べ物を与えて介抱すると共に、遭難した乗組員の遺体を丁重に埋葬しました。 そして、我が国は翌年の12月にこの69名の人達を軍艦「比叡」と「金剛」によりトルコ本国に送り届けました。 この事実はトルコの学校の教科書にも記載されており、トルコ国民は現在でも日本に深い恩義を感じていて大の親日家なのです。

3 国を守ると言う事
ここで2つの事を考えさせられます。1つは「国を守る」とはどう言う事か ? です。トルコは自国の航空機の安全より友好国の国民を救出する事を優先して呉れました。大変ありがたい事ですが、我が国の政府は緊急事態にある自国民を守る事よりも航空機の運行の安全を優先しました。 このような事で国民は国を信じる事ができるでしょうか ? 誠に残念な事です。 先ず自国民の生命を守るのが国家の基本的な責務です。 北朝鮮に拉致された我が同胞を未だに救出できず、拉致被害者の御家族の家族救出を訴える悲痛な叫びを聞く度に胸が張り裂ける思いです。 そして、最近の尖閣諸島の事態に刺激されて我が国民も漸く国土を守る努力の大切さを認識し始めたようですが、「国を守る」とは、先ず国民と領土を守る事であるとの基本的な認識を持つ必要があります。 同時に、特に現在の我が国において正しく認識すべき事は、自分の国は自分で守るのが基本である事です。 一部の我が国民は自国の防衛を同盟国たるアメリカに任せたように考えているようですが、とんでもない考え違いです。 自国の防衛は自国が全力を尽くして努力するものであり、同盟国はこの努力を見て我が国を信頼して必要に応じて支援又は協力して呉れるのです。 もう1つ考えさせられる事は、我が国の先人達の素晴らしい心と行動です。 自身の危険を冒しても他国の人を助ける努力をして外国からの信頼を得ている事です。 これは我々の素晴らしい財産です。 他人を思いやる心は日本の文化の根本ですので、大切に守らなればなりません。要するに国を守ると言う事は、自国民の安全を守り、自国領土の保全を守り、そして、我が国本来の文化を守ると言う事に尽きます。
アフリカの人達を黄熱病から救うために尽力し、最後は自身が黄熱病に罹って落命した野口英世、台湾のためにダム建設をしたり、農業用灌漑施設等を整備して台湾の人達のために献身的な努力をして今でも現地の人達から深く尊敬されている八田与一、「朝鮮で聖者と呼ばれた日本人」(田中秀雄著 草思社)として、我が国による朝鮮統治時代に朝鮮の農業振興に全力を尽くした重松髜修(まさなお)等の自国のみならず諸外国の人達のために献身的に努力をされた我々の先人が沢山居られます。
要するに国を守るとはどう言う事か、そのためには何をするべきかを特に次の我が国を背負う若い世代の人達にしっかりと伝える事が大切である信じる次第です。


日本ネイビークラブ 理事長 大橋武郎(元空将補)



2 件のコメント:

不動明王 さんのコメント...

ありがとうございます。
感激しました。
そして考えさせられました。
私たちの力で日本を取り戻さねばならないと感じます。

koe さんのコメント...

不動明王様
こんばんわ。いつもありがとうございます^^
本当に考えさせられることばかりです・・・
気持ちばかりが焦りそうになりますが
そうですね、取り戻したいですね。