2012年2月25日土曜日

大日本帝国憲法入門(20)

 こんにちは。今日は「第五章 司法」の各条文の解説をします。

 

 第五章 司法


 第57条 1 司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律二依リ裁判所之ヲ行フ

      2 裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム


 (口語訳)1 司法権は天皇の名において法律により裁判所が行う。

      2 裁判所の構成は法律をもって定める。


 司法権の意義は前回お話した通りです。「天皇ノ名ニ於テ」とは天皇の司法権を裁判所が代わって行使するという趣旨を表現するものです。
 ただ、統治権を総攬する(第4条)とは三権を行使するのと同義であるので、ここは天皇が司法権を裁判所の協賛または輔弼を受けて行使すると規定するべきでしょう。憲法復元の際にはこのように改正すべきと考えます。

 第1項は、三権のうち司法権の存在とその行使について定めたものであり、国体に関わる規範です。



 第58条 1 裁判官ハ法律二定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之二任ス

      2 裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分二由ルノ外其ノ職ヲ免セラルルコトナシ


(口語訳) 1 裁判官は法律に定めた資格を備える者で任命する。

      2 裁判官は刑法による有罪の判決またはその他の懲戒処分によるのでなければ、免職されない。


 裁判官が法律実務家である以上、それに相応しい法的素養を身につけた者にのみその資格を与えるべきことは当然でしょう。

 また、裁判官は裁判により有罪とされた場合、その他の懲戒処分を受けた場合のように、法律上正当な理由があるのでなければ免職されません。これは、その職務上、裁判というものが他の機関からの干渉を受けやすいのでそれを防ぐため、裁判官の身分の保障を定めたものと解されます。これを「司法権の独立」といいます。

 前回お話しした、司法権の意義に鑑みれば司法権の独立はそれを全うする上で必要不可欠です。よって、これも国体に関わる規範であると考えるべきです。



 第59条 裁判ノ対審判決ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律二依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ対審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得

(口語訳) 裁判の対審と判決は公開する。ただし、安寧秩序または良俗を害する恐れがあるときには法律の定めにより、または裁判所の決議によって対審の公開を停止できる。


 裁判は、公正に実施されねばなりません。これを保障できる最もよい方法は、裁判を一般に公開し、その傍聴を認めることです。裁判の公開は、法律に則った裁判を保障するのに不可欠なものであり、これは国体に関わる規範であるといえます。

 ただし、全ての裁判を公開することが適切であるともいえません。その裁判を公開することで、秩序や良俗に害を及ぼすと判断される場合には、非公開とするわけです。ただし、非公開とされるのはあくまでも対審(裁判の過程)であり、判決は絶対に公開せねばなりません。



 第60条 特別裁判所ノ管轄二属スヘキモノハ別二法律ヲ以テ之ヲ定ム

(口語訳) 特別裁判所の管轄に属するものは、別に法律で規定する。

 第61条 行政官庁ノ違法処分二由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別二法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判二属スヘキモノハ司法裁判所二於テ受理スルノ限二在ラス

(口語訳)行政官庁の違法な処分によって権利を侵害された場合の訴訟で、特別に法律で定めた行政裁判所で裁判するものに属するものは司法裁判所で受理することはできない。


 第60条と第61条は一続きのものなので、一緒に解説します。

 特別裁判所とは、通常の民事・刑事事件以外の事件、例えば行政裁判所や軍法会議などを指します。

 行政裁判所では臣民が行政官庁の処分により損害を被った場合にこの官庁を訴える、いわゆる行政事件を扱います。

 軍法会議とは、軍の規律に違反した軍人を裁く裁判です。

 これらの事件は、その特殊性から、通常の民事・刑事事件を扱う司法裁判所で裁判するのではなく、特別裁判所において裁判すべし、というわけです。

 特に行政官庁による違法処分についての行政事件については、法律で定めたものについては第61条において行政裁判所で裁判すべきとし、通常の事件を扱う裁判所(司法裁判所)で裁判することを禁じたのです。

 司法権の意義は、法を守ることにより国体を護持することにあるわけですが、本来であれば裁判所において裁判されるべき事件を、その性質に鑑みて特別裁判所で裁判するわけです。これによって司法権の意義が損なわれることのないよう、特別裁判所を規定するこれらの条文については考慮するべきです。


 次回は「第六章 会計」の解説です。



 このブログはこちらからの転載です → 『大日本帝国憲法入門』

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