2012年2月25日土曜日

大日本帝国憲法入門(21)

 こんばんは。今日は、「第六章 会計」の解説です。

 

 第六章 会計


 第62条 1 新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ

      2 但シ報償ニ属スル行政上ノ手数料及其ノ他ノ収納金ハ前項ノ限ニ在ラス

      3 国債ヲ起シ及予算ニ定メタルモノヲ除ク外国庫ノ負担トナルヘキ契約ヲ為スハ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ


(口語訳) 1 新たに租税を課し、または税率を変更するときは法律で定めなければならない。

      2 ただし、報償である行政上の手数料やその他の収納金はこの限りではない。

      3 国債を発行し、または予算に定めたもの以外の負担となる契約を締結するときは帝国議会の協賛を経なければならない。


 国家を運営していく上で、租税を徴収することは必要不可欠ですが、臣民の負担となる租税の徴収を、ただ行政機関の一存で決定することは、恣意的な租税徴収を招く恐れがあります。

 そこで、新たに租税を課し、または税率を変更スル場合には、臣民の代表たる帝国議会の可決する法律によってしなければならない、と定めたのです。従って、命令によって租税を課すことは禁じられます。

 第2項の「報償である行政上の手数料」とは、いわゆる通常の租税とは異なり、例えば現代では水道料金のように、一定の料金を支払うことにより対価たるサービスを行政から受ける場合の、この料金を指します。通常のいわゆる租税はそれによって対価たるサービスが発生することはありませんが、それがこの「報償である行政上の手数料」との違いです。この場合は、必ずしも法律で定める必要はないと定めました。

 また、国債を発行したり、予算に計上されていなかった契約を政府が締結することは国家財政に影響を与えることになりますので、これも帝国議会の協賛が必要です。




 第63条 現行ノ租税ハ更ニ法律ヲ以テ之ヲ改メサル限ハ旧ニ依リ之ヲ徴収ス

(口語訳) 現行の租税は法律で改正することのない限り、前年同様に徴収する。


 予算を決定する必要がある以上、国家の歳入は一定のものが予測できねばなりません。よって、法律によって改正されない限り、前年同様に徴収するべきことが定められました。



 第64条 1 国家ノ歳出歳入ハ毎年予算ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ得ヘシ

      2 予算ノ款項ニ超過シ又ハ予算ノ外ニ生シタル支出アルトキハ後日帝国議会ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス

(口語訳) 1 国家の歳出と歳入は毎年、予算として帝国議会の協賛を得なければならない。

      2 予算で定めた金額以上のもの、または予算で定めたもの以外の事項について支出をした場合は、後日帝国議会の承諾を求めなければならない。


 国家の歳出と歳入は、それを租税などの臣民の負担によるものです。従って、これを行政機関の判断だけにより決定させるのではなく、臣民の代表たる帝国議会の協賛を得るべきものと定めているのです。予算で予定されていた以外の支出があった場合にも、後日必ず帝国議会の承諾が必要です。



 第65条 予算ハ前ニ衆議院ニ提出スヘシ

(口語訳) 予算は先に衆議院に提出しなければならない。


 予算を決定するのは内閣の責任ですが、これはまず、衆議院に提出せねばなりません。予算が租税を財源とするものである以上、徴収される対象である臣民の代表たる衆議院において先に審議することが公正と考えられたからです。


 
 第66条 皇室経費ハ現在ノ定額ニ依リ毎年国庫ヨリ之ヲ支出シ将来増額ヲ要スル場合ヲ除ク外帝国議会ノ協賛ヲ要セス

(口語訳) 皇室経費は現在の一定額を毎年国庫から支出し、増額が必要な場合を除いては帝国議会の協賛を必要としない。


 これは、第64条の例外規定です。皇室経費については、その性質上、増額する場合においてのみ帝国議会の協賛を必要なものとしたのです。



 第67条 憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出及法律ノ結果ニ由リ又ハ法律上政府ノ義務ニ属スル歳出ハ政府ノ同意ナクシテ帝国議会之ヲ排除シ又ハ削減スルコトヲ得ス

(口語訳) 憲法上の大権に基づく既定の歳出、及び法律上求められ、または法律上政府の義務に属する歳出は政府の同意がなくては帝国議会はこれを廃止、削減することはできない。


 憲法上の大権に基づく既定の支出とは、第1章の天皇大権による支出、すなわち行政各部の官制や陸海軍の編成に要する費用などで、予算提議の前に既に定まっているものをいいます。これらの支出が帝国議会の協賛が得られないことにより不可能になってしまうと、国家の運営に重大な支障をきたすことになってしまいます。そこで、このような事態を防ぐため、この規定が設けられました。



 第68条 特別ノ須要ニ因リ政府ハ予メ年限ヲ定メ継続費トシテ帝国議会ノ協賛ヲ求ムルコトヲ得

(口語訳) 特別の必要により政府はあらかじめ年限を定め、継続費として帝国議会の協賛を求めることができる。

 
 これも第64条の例外規定です。予算は毎年帝国議会の協賛を得るのが原則ですが、必要があるものについては年度を限って継続費とし、複数年にわたる予算の協賛を求めることもできます。


 
 第69条 避クヘカラサル予算ノ不足ヲ補フ為ニ又ハ予算ノ外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツル為ニ予備費ヲ設クヘシ

(口語訳) 避けることのできない予算の不足を補うために、または予算以外に生じた必要な費用に充当するために予備費を設けなければならない。


 どんなに慎重に予算を組んでも、予期しない事態で歳出が必要になることがあります。そのために設けられたのが予備費です。


 第70条 1 公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需要アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ招集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得

      2 前項ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス

(口語訳) 1 公共の安全を保持するために緊急の必要がある場合には、内外の事情により政府は帝国議会を招集することができないときは勅令により財政上必要な処分をすることができる。

      2 前項の場合には次の会期において帝国議会に提出し、その承諾を求めなければならない。

 第8条と同様の趣旨の規定です。緊急の必要があり、帝国議会を招集できないときは勅令で緊急の処分ができますが、この場合は次の会期で必ず帝国議会の承諾を得なければなりません。



 第71条 帝国議会ニ於テ予算ヲ議決セス又ハ予算成立ニ至ラサルトキハ政府ハ前年度ノ予算ヲ施行スヘシ

(口語訳)帝国議会で予算を議決せず、または予算成立に至らなかったときには政府は前年度の予算を施行せねばならない。

 
 予算が議決されない時には、国家の運営に大きな支障をきたすことになります。そのような事態を防ぐため、この場合は前年度の予算に基づくことにしたのです。


 第72条 1 国家ノ歳出歳入ノ決算ハ会計検査院之ヲ検査確定シ政府ハ其ノ検査報告ト倶ニ之ヲ帝国議会ニ提出スヘシ

      2 会計検査院ノ組織及職権ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

(口語訳) 1 国家の歳出歳入の決算は会計検査院で検査確定し、政府はその検査報告とともにこれを帝国議会に提出せねばならない。

      2 会計検査院の組織及び職権は法律で定める。


 会計検査院は、決算が適切に行われたかを検査する機関です。不適切な決算がなされていないかを検査し、政府はその結果を帝国議会に提出して審議を受けねばなりません。



 
 次回は「第七章 補足」です。( ´ω`)ノ



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